【口腔外科医解説】その歯の痛み、実は「筋肉の痛み(筋・筋膜痛)」かもしれません!虫歯ではない長引く痛みの原因と対処法
こんにちは、谷村歯科医院 歯科医師・口腔外科医の鈴木 孝美です。
「歯がズキズキ痛むのに、歯科医院でレントゲンを撮っても虫歯や歯周病はないと言われた」「治療をしたはずなのに、原因不明の歯の痛みがずっと長引いている」……そのようなご経験はありませんか?
今回は、そうした長引く歯の痛みが、実は歯そのものの問題(虫歯や歯周病)ではなく、「顎(あご)や首に付いている筋肉の痛み」である可能性についてお話をいたします。
顎を動かす4つの「咀嚼筋(そしゃくきん)」の役割

私たちの上下の顎の骨(上顎骨・下顎骨)にはたくさんの筋肉が付いており、それらの筋肉が連携して働くことで食べ物を噛む「咀嚼(そしゃく)」を行っています。 顎の周りの筋肉には、それぞれ「口を開ける筋肉」「口を閉じる筋肉」「下顎を安定した位置に保っておく筋肉」などの大切な役割があります。
上記のイラストには代表的な2つの筋肉(側頭筋・咬筋)しか描かれておりませんが、医学的に「咀嚼筋」と位置づけられる主な筋肉は以下の4種類です。
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側頭筋(そくとうきん)
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咬筋(こうきん)
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内側翼突筋(ないそくよくとつきん)
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外側翼突筋(がいそくよくとつきん)
この4つの筋肉の中で、「側頭筋」「咬筋」「内側翼突筋」の3つは、食事や食いしばりの際に下顎を引き上げて口を閉じる働きをする筋肉であり、専門的には「閉口筋(へいこうきん)」と呼ばれます。 一方、残りの「外側翼突筋」は、口を開ける動作の補助をしたり、下顎を左右に動かす「側方運動」を行ったりする筋肉になります。
このほかにも首の筋肉(胸鎖乳突筋など)を含め、口の開閉運動や側方運動に関係する筋肉はいくつもありますが、今回は歯の痛みの原因として特に多く見られる代表的な「側頭筋」と「咬筋」の2つに焦点を当ててお話しします。
なお、こうした筋肉の障害によって起こる痛みのことを、正式な身体疾患の病名として「筋・筋膜痛(きんきんまくつう)」と呼びます。
「筋・筋膜痛」と、離れた場所が痛む「関連痛」とは?
食いしばりや歯ぎしり、長時間の緊張などによって筋肉が慢性的に疲労すると、筋肉の中に「トリガーポイント(TP)」と呼ばれる、押すと強く痛むポイント(圧痛点)が現れます。
そして筋肉の痛みや疲労がさらに悪化すると、指で押した時だけでなく、何もしなくてもズキズキと痛む「自発痛」が生じることがあります。 ここで臨床上、診断を難しくする複雑な問題になるのが、「その痛みが、原因となっている圧痛点(トリガーポイント)から離れた別の場所に生じる」という現象です。
この現象のことを、医学用語で「関連痛(かんれんつう)」と言います。 もっと分かりやすくお話しすると、筋・筋膜痛においては「実際に痛みが起きている原因の場所(筋肉)」と、「患者さまご自身が痛いと感じる場所(歯など)」が異なっているのです。脳が痛みの信号を勘違いしてしまい、「筋肉が痛んでいるのに、歯が痛んでいる」と錯覚してしまう状態と言えます。
1. 側頭筋(こめかみの筋肉)の関連痛

こめかみから頭の横にかけて扇状に広がっている「側頭筋」にトリガーポイント(図の×印)ができると、上の歯に痛みを感じることがあります。 上記の図のように、側頭筋の前方(前腹:図A)に痛みの原因がある場合、離れた場所にある「上の前歯」に関連痛が生じます。また、側頭筋の真ん中あたり(中腹:図B・C)に原因がある場合は、「上の奥歯」に歯の痛みとしての関連痛を生じることが分かっております。
2. 咬筋(エラの筋肉)の関連痛

頬の奥からエラの部分にかけて付いている「咬筋」にトリガーポイント(×印)ができた場合も同様です。 上記の図Bのように、咬筋に痛みの原因がある場合、すぐ近くにある「下の奥歯(または上の奥歯)」に強い痛み(関連痛)を生じることが分かっております。(※なお、図Aのように首の筋肉である胸鎖乳突筋のこりから、頭痛や顔面痛が生じることもあります)。
このように、顎の筋肉の痛みが「関連痛」として「歯の痛み」のように現れることがあるため、もし虫歯が見当たらないのに歯が痛む場合、今のその痛みは歯が原因ではない可能性がございます。
筋肉の痛みの原因「トリガーポイント」の見つけ方
しこり(硬結)を確認する専門的な触診
痛みの引き金となる「トリガーポイント(TP)」とは、慢性的な筋肉の疲労や緊張が生じたときに筋肉の中で作られる「しこり」のことであり、筋肉の中の「硬結(こうけつ=凝って固くなった場所)」の中に存在するとされています。 この部分は、指で押すと飛び上がるほどすごく痛いという特徴的な臨床症状があります。これを正確に見つけ出すには、口腔外科医や歯科医師による専門的な「筋肉の触診」が必要となります。
関連痛かどうかを見極める検査法
実際にその筋肉のしこりが歯の痛みの原因(関連痛)であるかを見つけるには、痛みのあるトリガーポイント(TP)を指で「2秒以上」持続的に押す検査を行います。 このとき、単なる筋肉の痛みだけでなく、「いつも感じている歯の痛みがその場で再現されるか(響くような痛みが出るか)」を確認し、患者さまに「今出た痛みは、普段悩んでいる歯の痛みと同じですか?」とお聞きすることで診断をつけます。
トリガーポイント(TP)の治療とご自宅でのストレッチ法
一度筋肉の中に発現してしまったトリガーポイント(TP)は、適切に治療やケアをしないと自然には消失しないと考えられています。 緊張してギュッと収縮し、硬くなってしまった筋肉の血流を回復させて正常な柔らかい状態に戻すには、日々の「筋肉のストレッチ」が非常に有効です。
1回30秒×1日3セットの「開口ストレッチ」
今回ご紹介した「側頭筋」や「咬筋」は、どちらも「口を閉じるための筋肉(閉口筋)」です。そのため、逆に「お口を大きく開ける動作」を行うと、これらの筋肉が心地よく伸ばされてストレッチになります。
全身のどの筋肉にも共通しているストレッチの大原則は、「反動をつけずに、じわっと30秒間伸ばし続けること」と考えられています。 そのため、お口を痛くない範囲でしっかり開けて「1回30秒間キープするストレッチ」を、朝・昼・晩で3回ずつ(1日3セット)継続して行うと、筋肉の緊張がほぐれて非常に効果的と言われています。
また、セルフケアやストレッチだけでは改善しない強い痛みがある場合には、高次専門医療機関(大学病院の口腔外科やペインクリニックなど)において、そのトリガーポイント(TP)に直接局所麻酔薬などを注射して痛みの悪循環を断ち切る「トリガーポイントインジェクション(トリガーポイント注射)」と呼ばれる専門治療も行っております。
長引く歯の痛みがあり、レントゲン等で調べても「虫歯でもない、歯周病でもない」という時、もしかしたら顎や首の筋肉の痛みが「関連痛」として歯の痛みのように感じられている場合がございます。
当院では、歯や歯ぐきの検査だけでなく、こうしたお口周りの筋肉や顎関節の状態も含めた徹底した検査・診断を行っております。原因の分からない歯の痛みや顎の違和感など、なにか気になる症状がございましたら、どうぞお気軽にお申し付けください。
歯科医師・口腔外科医 鈴木 孝美
谷村歯科医院
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