お薬手帳をお見せ下さい

 

こんにちは、口腔外科医の鈴木です。
今回は、『お薬手帳をお見せ下さい』というテーマです。

皆さまはお薬手帳をお持ちでしょうか?お薬手帳をお持ちでいらしたら、必ずお見せ頂きたい理由をお話致します。
また、お薬手帳をお持ちでなくても、普段服用中のお薬があるなら教えていただきたくおもいます。
「病院ならともかく、歯医者さんでそこまで言う必要がないだろう」「歯を治すのに他の病気のことは関係ないのでは?」「あまり持病のことは言いたくない」と思う方もしれませんが、それはとても危険です。
安心・安全な治療のために、持病やお薬のことをぜひ私達に教えて下さい。

歯科医院にいくと、持病や服薬について問診票に記入したり、先生や歯科衛生士さんから「治療中のご病気や飲んでるお薬はありませんか?」と聞かれると思います。
それは、とても重要な事で、病気やお薬によっては、歯科が知らないまま治療を進めてしまうと生命の危険が生じたり、歯科の治療後に痛みや腫れが続いたり、治りが悪くなったりと患者さんが苦しい思いをされることがあります。
そこで今回は持病やお薬が歯科治療とどう関係するのかをお話したいと思います。

歯科医院で治療をする際に病気やお薬の情報がとくに大切になるのは、抜歯やインプラントなど外科的な治療を受けられるときです。
今回は治療を受けられている患者さんがかかっている全身の病気のうち、とても多い次の3つの病気とお薬についてお話します。

① 高血圧症
② 血液サラサラのお薬(血栓症)
③ 骨粗しょう症

この3つの病気は歯科治療をする上で必ず申告と服用している薬について教えていただきたいです。
これらの病気とお薬についてお話ししていきます。

 

1 高血圧症
どんな病気?
高血圧症とは、血圧が高い状態です。
心臓から全身へと血液が送り出されているのですが、この時の血管の壁にかかる圧力を『血圧』といいます。
血圧が高いと血管にかかる血液の圧力が大きくなります。
血管にかかる圧力が大きい状態をそのままにしておくと、脳や心臓への負担となり、脳血管障害や心筋梗塞、心不全を引き起こす可能性があります。

お薬はどんな風に作用するのか?
高血圧症の方が飲んでいるお薬は『降圧剤』といいます。
降圧剤には色々種類がありますが、目的は同じで『血管にかかる圧力を下げる』ことです。

歯科治療とどう関係する?
高血圧症のかたは、歯科治療時の緊張でさらに血圧が上がります。
血圧が上がると、心臓がドキドキして、一番怖いのが脳の血管への影響です。
内圧が上がりパンパンになった血管が破れて、脳出血を起こしてしまうことがあります。

歯科治療中にはどのように対応するか?
血圧が高めの患者さんには、ご体調を見ながら治療を進めていきます。
そして、血圧計で血圧を測りながら歯科治療を進めていきます。

 

2 血栓症
どんな病気?
血管内に血栓(血の塊)が出来て、血管を塞いでしまうことで起こる病気で、血管が塞がるとその先の細胞に栄養が届かず、やがては壊死をしてしまいます。
脳や心臓の血管が詰まって脳梗塞や心筋梗塞となった場合には、とても命に関わります。
血栓には2種類あり、1つは動脈にできる動脈血栓です。
血流の早い動脈内で、血液の粘度と血流の速度のバランスにより、血小板が凝集してしまうことで、血栓ができます。
もう一つは静脈にできる静脈血栓です。
静脈の血流が遅いときに、凝固作用のある赤血球とフィブリンが固まって血栓になります。

お薬はどのように作用するか?
血栓症の発症を抑制するために服用するのが抗血栓薬。
いわゆる『血液サラサラのお薬』です。
動脈血栓で血小板が固まらないようにする薬は抗血小板薬といい『バイアスピリン』が有名です。
静脈血栓で赤血球とフィブリンが固まらないようにする薬は抗凝固薬といい『ワーファリン』が有名です。

歯科治療とどう関係する?
抗血栓薬を服用しているかたは、出血が止まりにくくなります。
抜歯やインプラントなどの治療で大きな血管を触っていないが、じわじわと出血が続くことがあります。

歯科治療ではどのように対応するか?
出血を完全にとめるために、通常より長くガーゼなどを咬んでいただく必要があります。

 

3 骨粗しょう症
どんな病気?
骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が繰り返されることで、絶えず新しく生まれ変わっています。
このことを骨代謝といいます。通常は骨吸収と骨形成のバランスは釣り合っているのですが、このバランスが崩れて骨吸収の方が大きい状態が続くと、骨量が減り、骨の中がスカスカになっていきます。
当然骨折しやすくなり、一般的にホルモンバランスの変化する閉経後の女性がなることが多いです。

お薬はどのように作用するのか?
骨代謝のバランスが崩れ破骨細胞による骨吸収の方が増えている状態ですから、骨吸収を抑制して骨量が減らないようにしないといけなくて、お薬は『骨吸収抑制薬』と呼ばれます。
いくつかの種類があり、代表的なものはビスホスホネート(BP)製剤があります。
飲み薬と注射もあります。

歯科治療とどう関係する?
骨粗しょう症は、からだの骨だけでなく顎の骨にも影響します。
なので、骨粗しょう症の方はインプラント治療や抜歯をするときに注意点がありま
す。
大きな手術を受けたあとに『顎の骨の壊死』(顎骨壊死)が起こることがあるので、とても慎重に治療します。

歯科治療ではどのように対応するか?
医科の主治医の先生と必ず連携して歯科治療と服用中のお薬のバランスを考えていきます。

 

今回は代表的な3つの病気及び治療薬と歯科との関係についてご説明致しました。
歯科治療は全身とつながっておりますので、ご不安な点がございましたら、なんでもご相談下さいませ。

歯科医師 鈴木孝美